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早漏出張vol.3「青森のにんにくとマキとマコ」

過去の早漏出張はこちら!

早漏出張vol.1
「浜名湖のうなぎと梓川香苗」

早漏出張vol.2
「耶馬渓のすっぽんと木下林檎」

いままでの早漏出張を
一気読みはこちら!

私の名前は日高十郎。
金と女は全て手に入れてきた。

しかし、私は童貞だ。

早漏のため、
ゴムをつけた瞬間イってしまう。

そう、つまり、
ゴムとSEXしてるだけなのである。

目の前に広がる美しい滝……
それを見上げて、
私はスマホのカメラで写真を撮った。

「ああ……いい景色だ」

趣味であり、
何よりのリフレッシュである旅行。

その目的地として、
私は青森県を選んだ。

「なにより、気候がちょうどいい」

つい先日まで、
私は取引先の企業がある
インドを訪問していた。

あちらでもスパイシーで刺激的、
旅行先としてなら楽しかったかも
しれないが、なにしろ仕事だ。

すっきりとした気候を求めていた私は、
自然とインドから帰る飛行機の中で
『滝』の映像を探していた。

その中で見つけたのが
『みろくの滝』という
青森県田子町にある滝だった。

広々とした横幅に、
絹糸のように細く滴る滝。

画面からでも伝わる
清涼感にいたく感動し、
休暇に入ってすぐ、
私は青森県へ飛んだのだった。

「本当に綺麗な滝だな」

もう少し離れた場所で写真を撮ろう、
そう思って、私は滝から数歩離れた。

その時だ。

「ちょっとー、おじさん邪魔ー」

間延びした声に、
私は驚きつつ振り返る。

見ると、
周りの大自然からはかなり浮いた、
なかなかアバンギャルドなファッションの
少女二人がこちらを見ていた。

鮮やかさと違和感が凄まじい。

一人は肩までつくようなマロン系の髪色で、
もう一人は金に染めた髪を
短くカットしている。

ただ体は雪国美人らしいというべきか、
色白で、むしろ健康美を感じさせた。

突然見知らぬ彼女たちに
『邪魔』と言われることに、
むっとした思いがあったのは事実だ。

しかし、写真を撮るのに夢中になっていた
自分にも至らぬ点はあるだろう。

「ああ、すまない。すぐ退くよ」

そう言って離れたが、
彼女たちは私をじっと見つめてくる。

「……あ、もしかして
写真を撮った方がいいのかな?」

気を利かせて
尋ねてみたつもりだったが、
そうではないらしい。

顔を近づけ合い、
彼女たちが高速で
ひそひそと
話しているのが聞こえてくる。

「やっば、
メチャメチャイケメンじゃん! 
ヤバすぎじゃん!」

「おじさんなんてマコが言うから! 
あんなのおじさんじゃないじゃん!」

「あんなイケメンだなんて、
おもわなかったの! 
あーしのせいじゃないし! 
マキこそなんか言ってよ!」

私に聞こえている、と言う可能性には、
思い至らないのだろうか。

「別におじさんと言われても
気にしないよ」

「えっ!? 
あ、あー、ご、ごめんなさい」

「うっ。マキ、素直。
えーと、私も、ごめんなさい」

素直に謝りだした二人に、
何となく会話を続けたい
気持ちが芽生えた。

「それで、
写真を撮りに来たのかな?」

「うん! この滝、
スヌーピーに見えるんだって!」

「スヌーピー? 
……ああ、確かに、言われてみると」

彼女たちに引っ張られ、
滝をある地点から見る。

そこからだと、
滝の流れが確かに犬を
モチーフにしたキャラクターである、
あのスヌーピーの形を
しているように見えた。

「あーし達、大学生で、
ここが地元なんです。
今日、休みだからここに来たんですよ」

「へぇ。あっ、写真撮るかい?」

「自撮り棒あるんでー。
あっ、お兄さん、
一緒に入ってくれませんか?」

きゃっきゃと楽しそうに
話しかけてくる二人と
写真を撮ったところで、
そろそろこの滝から
街中へ向かうバスが来る時刻となった。

すると、

「あのっ、お兄さん。
車、一緒に乗っていきます?」

と、マキと呼ばれた、
金髪の少女が言った。

話を聞くと、
彼女が運転する車で
ここに来たという。

「いや……
流石にそこまでしてもらうのは、
悪いよ」

「でもでもっ! 
凄い突然声かけたのに、
お兄さんめっちゃ対応すっごく丁寧で、
なんか、その……」

「そうそう! 
マコといつも歩いてると、
顔しかめられたりとかするのにっ!

お兄さん全然、
まちがえておじさんとか言っちゃったのに、
許してくれたし!」

どうしたものか、と考えていると、
他にも何名かの観光客が来るのが見えた。

なるほど、
彼女たちくらいの年の子でも立ち寄るくらい、
気軽な場所なのだろう。

「あれー、マキとマコじゃん。
パパ活でもしてんの?」

「あははは、そんな訳ないじゃん」

彼女たち二人と同い年くらいの少年たちは、
どうやらマコさんとマキさんの知り合い
だったらしい。

二人は顔を真っ赤にして、
俯いている。

いや……知り合いというには、
失礼な言葉だった。

私は彼らを無視して、

「なら、
マキさんの車に乗せてもらえるかい?
バスには乗り遅れそうだし、ありがたいよ」

と、言った。

マキさんがパッと笑顔を見せて、
頷いてくれる。

彼らは何故か驚いたような顔をしていて、
私はそちらを見ることもなく、
二人の後に続いた。

途端、肩を掴まれる。

「おい、おっさん、
無視すんなよ」

呆れが追い付かないほどの短慮な言葉。

彼女らが私の後ろで、
おろおろとしているのが分かる。

訳が分からないのはこちらだった。

ともかく彼らは、
二人が自分の予想通りに反応をせず、
そして私が
二人と一緒に行動することが許せないのだろう。

「マキさん、マコさん、
先に車の方へ行っていてくれるかな?」

「え、でも」

「大丈夫だから」

二人が少しずつ離れていくのを確かめ、
私は少年たちの方へ視線を移す。

「朝川良太君」

「……えっ、なんで俺の名前」

「スマホに堂々と名前のシールを
貼ってるからね、その程度隠しなさい。

それから隣の君、
ズボンのチャックが開いたままだ、
だらしない。

あと後ろのツーブロックの子、
その動画をもしアップするようなら
ごく普通に法的措置をとるから
そのつもりでよろしく。それから……」

「っ、いいから、お前ら帰るぞ!」

最初に呼んだ、
朝川君とやらが
このグループの
リーダー的立場だったらしい。

彼らは
蜘蛛の子を散らすように帰っていき、
その後で私もまた駐車場へ向かった。

先に行った二人が、
慌てて駆け寄ってくる。

「お兄さん、あ、ありがとう!!」

「びっくりした……
みんな、帰っていっちゃうんだもの」

「彼らとは知り合いかい?」

マキさんが、俯き気味に頷いた。

「うん……
高校の同級生で仲良かったんだけど、
みんなもう社会人なの。

私たちだけ進学して、
それ以来……なんだか、
いじわるされるようになっちゃって……」

「……そうか」

しょげた様子の二人に、私は言う。

「じゃあ、
普段は大学に来てまで
彼らが意地悪することは
ないってことかな?」

「うん。あっ、だから大丈夫よ、
お兄さん……じゃなくて、ええと」

「失礼。日高十郎だ、
東京から旅行に来たんだ」

「日高さんね! 
ありがとう。心配しなくても平気!」

「うん!」

にっこりと笑うマコさんに
つられるように、
マキさんもようやくそれで、
笑みを浮かべてくれた。

とはいえ、
折角彼女たちは、地元に帰ってきたのだ。

「せっかくだから、
私に地元のおすすめグルメを
紹介してくれないかな?」

喜んで案内してくれた二人は、
車で私を街中まで乗せていってくれた。

一緒に入ったのは、
ニンニクをふんだんに使った
ステーキが人気のお店だ。

地域の直売所も併設されているらしく、
瑞々しい野菜や
ニンニク製品がたくさん並んでいる。

注文したのは、
彼女たちおすすめのステーキ定食だ。

生のニンニクが使われている、
とのことだったが、食べてみて驚いた。

「……美味しい。
生のニンニクを使うと、
こうも違うのか」

ニンニクが柔らかく、甘い。

さらに特有の臭みがなく、
むしろ匂いとして食欲をそそる。

「そうそう! 
スーパーで売ってるニンニクって、
保存してから売るから、
生っぽくても
実は乾燥してるんだよねー」

「長持ちするけど、
味とか柔らかさなら、
だんっぜんこっち!」

彼女たちも嬉しそうに、
ステーキを口いっぱいに頬張っている。

つい去年、成人したということだから、
まだまだ子供と言って差し支えないだろう。

「二人とも、口調が柔らかくなってきたな」

私がそう言うと、二人は顔を見合わせる。

「……そうかも。
地元に帰ると、
何時も朝川君たちに絡まれるから、
ワザと不良っぽい口調にしてて」

「日高さん、あの人たちとか、
地元のおじさんみたいに
変に偉ぶらないから、そのせいかも」

くすくすと笑う二人に、
私は食事に誘ってよかった、と思った。

定食のお盆を下げた女性が、
どこか嬉しそうな表情で続いて
林檎を持ってきた。

デザート、ということだろうか。
青森らしい、と思いつつ口に運ぶと、
マコさんが言う。

「生の林檎って、
ニンニクの臭い消しにぴったりなんですよ」

「へえ? じゃあ、
理にかなったデザートというわけか」

そんな会話をしつつ、
私のおごりとさせてもらい、
店の外に出る。

二人はすっかり恐縮した様子だが、
私としてはランチに付き合ってくれた上に、
さらに街中まで乗せてきてくれたのだから、
十分なほどだ。

「日高さん、
良かったらホテルまで、
送らせてくれませんか?」

「そうそう! 
それくらい、最後にさせてくださいよ!」

二人の言葉に、無理に断ることもできたが、
せっかくなので甘えることにした。

車に乗り込み、

「明日はまた
この近くを観光する予定なんだ。
おすすめはあるかな?」

と、会話をつづけたときだ。

運転するマキさんと、
後部座席の私の隣に座ったマコさんが
目配せしあい、車が緩やかに動き出す。

「……ね、日高さん。
さっき、林檎は臭い消しになるって
言ったじゃないですか」

「ああ、マコさんが、
そう言ってたね」

「試してみませんか?」

食事の後、
ピンクのグロスが新たに乗せられた
マコさんの唇が、艶やかに動いた。

二人はどうやら、
私を……誘っているらしい。

「……そうだね、
じゃあ。少しだけ、試そうか」

マコさんの唇を、
そっと奪う。

彼女はうっとりと目を閉じて、
優しく唇を合わせてきた。

運転するマキさんは、
手早くカーナビを操作して、
近くのラブホテルを検索したらしい。

その間も、
マコさんは私に息を吹きかけたり、
軽く抱き着いてじゃれてきたりと、
甘えるようなスキンシップを続けてくる。

確かに、全くニンニク臭くなく、
むしろ林檎のさわやかな甘い香りがする。

やがて到着したホテルに一緒に入り、
三人で同じベッドに腰かけた。

「もー、マコったらずるい! 
私も、その」

「……こうかな?」

可愛らしい口ぶりで誘うマキさんに、
そっと触れるだけのキスをする。

もっと、と目で強請られるので、
さらに続けて唇を重ねた。

もちろん、
マコさんが寂しくないように、
腰を抱いてお腹周りをするすると撫でる。

「日高さん、くすぐったいよぉ」

「ふふ、ごめんね。
こっちの方がいいかな」

「あっ!」

胸のあたりへ手を伸ばした瞬間、
高く甘い声をマコさんが上げる。

ニンニクを食べたせいなのか、
私もいつも以上に
やる気がみなぎっており、
二人を相手にするのも苦にならない。

「ところで……二人とも、
マキさんと、マコさん
って呼び方のままで、いいのかい?」

そこで私は、唐突に尋ねた。

本当は別の名前ではないか、
ということは、薄々感づいていたからだ。

「……日高さん、分かっちゃうんだね」

「うん。私はマキって言ってるけど、
本当は万紀恵っていうの」

「私も。マコって言ってるけど、
本当は真奈子なの」

二人はどことなく、寂しげだった。

「同じ高校から、大学行ったの、
女子だと私とマコくらいだったの」

「そのうちに……地元の友達からは、
無視されるようになって」

「地元に帰るのも楽しくないけど、
大学でもなかなかなじめなくて、

無理に髪染めたり、派手な格好して……
でもそんなんじゃ、

元々都会に住んでた子たちと、
仲良くなれるわけもなくって……」

「今日、日高さんが優しくしてくれて、
謝ったら許してくれて、
すごく……嬉しかったの」

彼女たちの気持ちを思うと、
酷く切なかった。

「初めてだけど、
日高さんなら、全然いいの」

「うん。私も!」

初体験と童貞なら、
私の本懐も達成できるのではないか……。

そんな思いが、私の中に芽生えた。

私は何も言わず、ゴムをかぶせた。

期待に胸が高鳴る、
二人はゆっくりと体をベッドに投げ出し、
私に触れられるのを待っている様子だ。

ゴムを一番最後までつけ、その瞬間。

ああ、悲しいほどいつも通りに、
私は射精してしまった。

ああ、現実は非情だ。

私の早漏癖がこんな時に
都合よく治ってくれるわけなど、
あり得るわけがないのだ。

ただそれでも、もしかしたら……
そう期待していただけに、
ガッカリ度はいつもに増して激しかった。

「……ふう、ありがとう、
スッキリしたよ」

二人はびっくりした顔をして、
それから、くしゃりと泣き顔になった。

「ばかっ、日高さんったら!」

「そんなこと、
しなくてよかったのに……!」

「ははは。なんてことはないよ」

そう。

私にとって、これはいつものこと。

極度の早漏ゆえの……
悲しき定めだ。

しかし彼女たちからすると、
それは
『もうこれでセックスしたのと同じ』と、
私が片づけてしまったように見えるのだ。

それでいいさ、と、
私は思いこむことにした。

しかし、勘違いした二人は
ポロポロと涙を流し、
私にすがるようにして、
泣き出してしまった。

そのため二人とはそのまま、
ホテルで何事もなく、
一夜を明かしたのだった。

翌朝。

泣きつかれて
眠ってしまったのもあってか、
すっかり顔のむくんだ二人が、
けらけらとお互いの顔を見て笑っている。

外は気持ちの良い天気で、
私も帰路につく時刻が迫っていた。

三人そろって、ホテルから出る。

顔を洗っただけ、メイクもなし、
すっぴんの素顔のままで
二人は楽しげに笑っていた。

「それじゃ、二人とも。元気でな」

「……うん! あのっ。
私、大学の勉強、
もうちょっと頑張ってみる」

「ありがと、日高さん。
私も、勉強もだけど、バイト始めてみる」

手を振る二人に、
私は「うん」とも「がんばれよ」
とも言わなかった。

勉強への没頭が正解でもない、
バイトが正解でもない、
正解が正解だと分かるのは
もっと先になってからだ。

だとしても、
逃げずに向き合い続けること……、
それが出来るのなら、

きっと彼女たちは何時か、
自分自身の中で
「あの時は楽しかった!」と、
思うことが出来るはずだ。

ああして宣言すること、
そして動き出すことが出来るだろう。

彼女たちの実力なら、きっと、出来るはずだ。

私の名前は日高十郎。

金と女は全て手に入れてきた。

しかし、私は童貞だ。

早漏のため、
ゴムをつけた瞬間イってしまう。

そう、つまり、
ゴムとSEXしてるだけなのである。

いつか私も、童貞を捨てよう。

新たにそう決意出来た、
そんな旅だった。

もりもの薬箱が選ばれる理由

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