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早漏出張 vol.2 「耶馬渓のすっぽんと木下林檎」

過去の早漏出張はこちら!

早漏出張vol.1
「浜名湖のうなぎと梓川香苗」

いままでの早漏出張を
一気読みはこちら!

『耶馬渓のすっぽんと
悲しみの遺書』

私の名前は日高十郎。

金と女は全て手に入れてきた。

しかし、私は童貞だ。

早漏のため、
ゴムをつけた瞬間イってしまう。

そう、つまり、
ゴムとSEXしてるだけなのである。

そんな私の楽しみが、一人旅だ。

仕事がひと段落したのをきっかけに、
私は一路大分県へ旅行に出かけた。

「うん……いい景色だな」

大分県を選んだのは、気まぐれだった。

ちょうどテレビで
『大分県の耶馬渓』について特集
が組まれていたからだ。

北海道の大沼、
静岡の三保の松原
と並ぶ日本新三景の1つであり、
なんでも『青の洞門』という、
人が手で彫り上げた
トンネルがあるのだそうだ。

何とも心惹かれてしまい、
癒しと静けさを求めた私は、
自然と大分への飛行機を
予約していたのである。

出発から数時間後……
大分県は耶馬渓に到着し、
目的地である青の洞門へ向けて
歩き始めて、すぐのことだった。

「すみません……」

か細い声に周囲を見回すと、
若い女性が腰を抜かしたような姿勢で、
地面に座り込んでいた。

驚いて駆け寄ると、その顔は青白い。

さらに見ていくと、
その右肩に
二センチくらいの蜂が止まっていた。

「あ、あの。
ぶ、不躾なお願いとは分かっているのですが。
この蜂を、と、とって、くれませんか……」

どうやら蜂は、
服の繊維が脚に絡んでしまい、
彼女から離れられないようだ。

これほど彼女が怯えているとなると、
蜂に対してアナフィラキシーショックが
起きるアレルギーを持っている
可能性もある。

「大丈夫、じっとして」

下手に手を出すと刺される。

そこで私は、
持っていた
ペットボトルの中身をすべて捨てて、
蜂の上にかぶせる。

すると、服が下に押され、
同時に上手く蜂が離れたようだ。

ペットボトルの中に飛び込んだのを
見計らい、
すぐにはずして蓋をする。

とはいえ、無理に殺すのもかわいそうだ。

女性に断り、
遠く離れた場所で蓋を開けて
ペットボトルを地面におくと、
やがてそこから飛び出していった。

見届けてから、
私は話しかけてきた女性の方へ戻った。

「すまない、服に汚れは?
 刺されてはいないね?」

うるんだ眼をして私を見上げる彼女は、
一人でここに来たらしい。

大ぶりの眼鏡に、
一度も染めたことがなさそうな黒い髪、
動きやすいジャージを中心とした服装で、
背中にはリュックを背負っている。

たまたま、
上に羽織っていたカーディガンが、
蜂の足を絡めてしまったのだろう。

身長は160センチあるかないか
という程度で、
小柄という印象が強かった。

化粧気のない顔だが、
磨けば光る原石とでもいうように
色白の肌がピンク色に上気していて、
白桃のようだ。

「は、はい。こちらこそ、
ありがとうございます……
昔、蜂に刺されたことがあって、
どうしていいか
分からなくなってしまって……。
あっ、刺されてはいませんし、
服も大丈夫ですっ!」

「良かった。立てそうかな?」

「はい」

少々、
おっかなびっくり立ち上がった彼女に
手を貸して、
私がにっこりと微笑むと、
彼女は顔を赤くして俯く。

「すみません。こちらこそ、
なんとお礼を言っていいか……
本当に助かりました」

「はは、大丈夫さ。
でも青の洞門って、
女性にも人気のスポットなのかな? 
私も1人で、噂だけ聞いてきたから、
良く知らないんだ」

「そうですね、
観光地として人気なのは確かですよ。
えっと、
私は……菊池寛という人の小説を読んで、
こちらを見たくて、旅行で来たんです」

照れたように笑う彼女は、
そこでハッとした顔になる。

「あっ、わ、私。
木下林檎と言います。あの、お名前は」

「林檎さんか、私は日高十郎だ。
見ての通り、一人で旅行に来たところだよ」

「そ、そうなんですか」

ややはにかんだ彼女は、
どうも男性と話し慣れていないらしい。

となると、あまり拘束してしまうと、
彼女の旅が台無しになってしまうだろう。

この辺で別れたほうが、
彼女にとって良いはずだと思っていた、
その時だった。

「あのっ、もしよければ、
お礼として一緒に
お昼ご飯を食べませんか?」

「いやいや。蜂をとったくらいだから、
その言葉と気持ちだけで充分だよ」

すると林檎さんが、首を強く横に振る。

「実は、私、
蜂アレルギーを持っているんです。

それで、今度刺されたら、
間違いなくショック症状が
出るだろうって言われていて……
もし、ひ、日高さんに
助けてもらえなかったら、
旅行どころじゃなかったでしょう。

それに、今はこの辺はオフシーズンで、
人気もなくって……ですからっ、
お昼ご飯じゃ、全然っ、
ちっとも、足りないくらいなんです!」

ずいっと近づいてきて言い張る彼女に、
私は少し考えた。

確かに、そう言う事情なら納得も行く。

私としても彼女さえ良いのであれば、
この旅行中の昼食を、
同じ場所を見た誰かと共有することは
全く悪い話ではない。

「じゃあ……お言葉に甘えようかな」

「っ、ありがとうございます!」

彼女があまりに嬉しそうに笑うので、
私もつられて微笑んだ。

「えっと、実はこの後、
お昼を近くにある
すっぽんのお店で食べようと
思っていたんです」

「すっぽん? この辺では、有名なのかな」

「はい。臭みがなくて、
初心者でも食べやすいってお話なんですよ」

「へぇ……それはいいな」

すっぽんを食べた経験はあるが、
それはフカヒレとすっぽんの首の肉を
炊き合わせたもので、
どちらかというと
フカヒレに重きが置かれていた。

「じゃあ、一緒にいこうか」

「はい! よろしくお願いします」

にっこりと笑った彼女が
案内してくれたのは、
想像よりも
リーズナブルな雰囲気のお店だった。

流石に名産地と言うべきか……
普通に椅子に座って
すっぽん料理が
食べれるとは思いもよらなかった。

「じゃあ二人前コースで、
少々お待ちくださいね」

食堂のおばちゃんといった雰囲気の女性が、
てきぱきと用意を進めてくれる。

見ていて気持ちが良く、かつ、
朗らかで落ち着くのが分かった。

上品な宴会の席よりも、
こういう場の方が
モノの味が分かりそうな気がする。

「日高さん、なんだか慣れてそうですね」

「いいや、そんなことはないよ。
すっぽんなんて、
滅多に食べるようなものじゃないしね」

「……確かに」

林檎さんは、とても素直な人なのだろう。

ふんふんと頷く彼女を見ていると、
ひとしきり揶揄いたくなる。

「おまたせいたしました、
すっぽんコースですよ」

ちょうどよいタイミングで来てくれたのが、
料理だった。

そうして振舞われたのが、
まずは唐揚げだった。

肉の味は例えようもなく、
牛や豚、鳥と言った、
普段食べる肉で煮たものを
探すのが難しいほどだ。

強いて言えば、鶏のささみが近いだろうか。

面白いことに、刺身もうまいらしい。

薄紅の切り身が鮮やかで、
ほんの少しだけ口に入れるとヒラリと香る。

「お刺身……! 凄いですね!」

「はい。この辺りは、
温泉ですっぽんを育てているんです。

だから臭みが少なくて、
こういう食べ方もできるんですよ」

「へええ」

感心して言う彼女と共に、
すっぽんを堪能していると次に鍋が来た。

グラグラと煮える鍋の中には、
焼いた葱とすっぽんの肉が躍っていた。

肉を取って、ポン酢に少しだけつける。

「……美味しい!」

そうして、
すっぽんの『あっさり』とした感覚を
楽しんでいた私たちの元に、
小さなグラスが用意された。

「もしよければ、
すっぽんの血を楽しんでみませんか?」

「血、ですか?」

「はい、日本酒で割って、
飲みやすく仕立ててありますよ」

思わず二人で顔を見合わせたが……
結局は、私たちはそれぞれ、
すっぽんの血を飲んでみた。

まるでワインのような、
華やかな味わいだったのには驚いたが、
飲み干した後の林檎さんの
ぽってりとした赤い唇にも驚いた。

魅かれるほどに美しい、
赤い唇だったのだ。

会計を済ませた後……
外に出て、
私は彼女と共に駅の方へと
向かいつつあった。

すっぽんを食べたせいなのか、なんなのか。
二人の間に、
熱が糸を引くように
漂っているのが分かった。

思っていた以上に……
すっぽんには、
精をつける効果があったようだ。

「……日高さん」

うるんだ声に囁かれて、
私は彼女の手を、そっと握り締めた。

耳まで赤く染めて照れる彼女が、
顔を俯かせている。

その手を引いて、
私は目的のホテルの中へと入った。

ひなびたラブホテルの中は、ありきたりで、
だけど懐かしさを感じさせる。

しかし彼女は初めて入るのか、
珍しそうにあちこちを見回していた。

部屋へ到着すると、
彼女は、照れたように微笑んだ。

「あの、私。初めてなんです。

男性にあんなに優しくしてもらえたのも、
こういうふうに誘ってもらえたのも……。

本ばっかり読んでた私に、
振り向いてくれる人なんて、
いなかったから」

「林檎さん……」

「ごめんなさい、日高さん。
その。気持ちよくなかったら、
ごめんなさい」

そんなふうに謝る彼女に、
心のうちから
得も言われぬ感情がこみ上げてくる。

彼女を、抱きたい。

共に、気持ちよくなりたい。

「じゃあ、
私が先にシャワーを浴びてくるよ。

もちろん、嫌だったら、帰っていいからね」

私がそう言うと、
彼女は恥ずかしそうに首を横に振る。

すぐに浴室へ入ると、
すっぽんを食べたせいなのか、
すでに半立ちの陰茎が目に入って、
人ごとのように感心してしまった。

バスローブを纏って部屋に戻ると、
彼女はまだそこにいてくれた。

「……わ、私も、その。
シャワーを浴びた方が、いいですか?」

「自由にしてくれていいよ、
でもシャワーを浴びた方が
さっぱりはするかな? 
すっぽんのお店で、汗もかいただろうし」

「じゃ、じゃあ、入ってきますね!」

急いで浴室へ向かった彼女を見送り、
彼女が腰かけていたベッドの方へ行って……
そこでその手荷物から、
中途半端にはみ出した
『手紙』に気が付いた。

「……まさか」

妙な予感に開くと、
そこにあったのはまぎれもなく……
遺書だった。

「そうか」

何をどう、思いつめていたのかは、
私には分からない。

でも、今日初めて会った男に、
彼女のような奥ゆかしく繊細な女性が
ああも積極的になったのは……
このためなのだろう。

そう思うと、より一層、彼女が愛しい。

シャワーを浴びて出てきた彼女に
見られないよう、
遺書を元の位置へ戻す。

「お、おまたせしました!」

「ああ……可愛いね」

「へ!?」

「そのままの意味さ」

すぐに、私は彼女の腰を抱いて、
ベッドへいざなった。

目を丸くしている彼女の、
後ろの毛だけが濡れたところへ、
手を這わす。

しっとりとした触り心地を楽しんでいると、
彼女が震えるまつげのままに、目を開けた。

「ひ、ひだかさん……」

前戯など、碌に必要もないほどに、
彼女のそこは濡れているらしい。

水音とはまた違う、
粘着質な音が響いていた。

濡れたバスローブの上から、
そっと豊かな乳房を包むように触れる。

なまめかしい吐息と共に、
彼女の背が優しく反った。

まるで私へと、
乳房を差し出すような動きだった。

(ああ、たまらない!)

私はすぐさまゴムの袋を開け、
装着しようとした。

今日のものは、
ねっとりとしたジェルが
付いているタイプだ。

だが、急いた気持ちに、
私はなんとその、
ねっとりとしたジェルが付いている、
本来は表側になるはずの方を
つけてしまったのだ。

「んぅ、ふうぅう!?」

たっぷりとしたジェルが、
私の陰茎を包み込む。

ゴムが根元までにゅるにゅると入り込み、
私は思わず射精していた。

ゴムの中に、たっぷりと、
精液が溜まっていく。

「ひ、日高さん?」

「……林檎さん、目を閉じて」

「えっ? は、はい!」

純粋な彼女は、
私の言葉を素直に聞いてくれる。

「君を、私は、
とても最低な形で裏切ってしまった。
……君は、死ぬつもりだったんだね」

「っ、遺書を、読んだんですね……」

そうして私は、彼女の肩にそっと、
シーツを纏わせた。

彼女はしばらく目を閉じていたが、
やがて開くと、どこか切なげに微笑む。

「そうです。……
私、初恋の人に彼氏になってもらえて」

 ぽろっ、と、
その目から涙がこぼれた。

「その3日後に浮気されて、
振られたんです。

本当はあのすっぽん料理も……
彼氏と食べる予定でした。

それでやけくそになって、
こんなところまで……
でも日高さんに声をかけることが出来て、
馬鹿ですよね、
なんだか自殺をやめたほうがいい気が
してきて……」

私は、首を横に振った。

「いいや、馬鹿じゃないさ。
おかげで私は、
君とすっぽんまで食べられた。
でも……
君が秘密にしておきたかったかも
しれないのに読んだ私は、
君を抱くべき男じゃない」

「抱いてくれても、いいんですけどね……」

彼女の呟きは、聞こえなかったふりをした。

いつか私もまた、
彼女の記憶の一ページとなり、
あんな馬鹿な男がいたって
思ってくれればいい。

そんなことを、強がりな私は考えていた。

部屋を出る間際、
私はさりげなくゴムを捨てる。

すっぽんのおかげで
あんなに火照っていた体内も、
すっかりさわやかな風が吹くように、
なんの性欲も込みあがらなかった。

私は部屋を出て、颯爽と立ち去る。

もちろん、ホテル代は支払ってきた。

せっかくだ、このまま『青の洞門』に戻って、
先人たちの努力の結晶を見つめてこよう。

私の名前は日高十郎。

金と女は全て手に入れてきた。

しかし、私は童貞だ。

早漏のため、
ゴムをつけた瞬間イってしまう。

そう、つまり、
ゴムとSEXしてるだけなのである。

もりもの薬箱が選ばれる理由

LINE